アイルランド/イギリス/カナダ 2015
監督 ジョン・クローリー
原作 コルム・トビーン



アイルランドの小さな町からアメリカへと、仕事を求めて単身移住してきた田舎娘のささやかな恋路とその行く末を描いた、いわゆる上京物語。

ああ、監督ものすごく丁寧に撮ってるなあ、というのは感じました。

1950年代を再現するための衣装や美術に対するこだわりもそうなんですが、女優さんのね、ふとした表情の変化をのがさないカメラワークが秀逸でしたね。

セリフの外側で一瞬のショットが語りかけてくるものがあるんです。

これは素直にいいセンスしてる、と思った。

主役であるエイリシュが本当に少しずつ、蕾が花開くように洗練され美しくなっていくのを、きちんと「変化」として映像にしてるのにも感心しました。

女の子が大人の女性に変わっていくもっとも多感で華やかな人生の一断面を、見事切り取ってることは確か。

これは男性が見てもどこか感情移入してしまうものがあると思います。

新たな環境に投げ出されて変わらざるを得なかった自分、でも変わったことで確実に得たものがあることを知っている自分、誰にでもあるそんな過去のほろ苦い思いのあれこれをついついエイリシュに重ね合わせてしてしまうんですよね。

普遍性を持たせる上で、広くシンパシーを得る内容になってる。

じっくり撮ってるように見えて、実はすごくテンポがいいのも良かったですね。

決して山あり谷ありの起伏に富んだストーリーじゃないのに、不思議と中だるみしないのはそのおかげだったかも。

当時の貧しさを踏まえた上で、古き良き時代に対する憧憬が透けて見える雰囲気作りも巧みだった。

結局、芯の部分で人は変わらないんだなあ、なんて思わされたり。

ただね、まあ、率直に言うなら他愛のない物語ではあるんですよ。

故郷を飛び出して1人がんばってる人にとってはなにも特別なことじゃなくて、誰しも大なり小なり心当たりがある出来事を描いたにすぎない、と言えばそれまででしょうし。

でもそれを、あたかも今、この瞬間の共時性であるかのように見せつけるマジックがこの作品にはあったように私は思います。

エンディングの主人公の選択、見た人はどう感じたか、私は色んな人に聞いてみたい、と思いましたね。

日本的な古い感覚でいうとこれ色々微妙かもしれませんが、それすらカタルシスでもって彩る監督の手腕に脱帽、といったところでしょうか。

決して劇的でも派手でもないけどなんかいい映画、と言える作品だと思います。





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