スペイン/フランス 2010
監督 アグスティ・ビリャロンガ
原作 エミリ・テシドール



内戦後の1940年代スペイン、フランコ独裁政権による弾圧を背景に、階級社会の下層で翻弄される家族の姿を子供の視点から描いたサスペンス。

オープニング早々、男が何者かに襲われ馬車ごと崖下に転落するシーンが強烈なインパクトです。

これ、CGなのか実際に馬ごと突き落としたのか、ちょっと判別できないんですが、やたら生々しい。

本物だとしたら確実に馬は死んでると思う。

そして次のシーン、滑落した馬車を偶然発見し、駆け寄る主人公の少年。

馬車から放り出された血まみれの子供が息も絶え絶えに一言呟きます。

「ピトルリウア・・・」。

ピトルリウア、とは少年の住む地方で伝わる洞窟に住む怪物のこと。

もう、この一連のシークエンスで目線は画面に釘付けです。

ミステリの幕開けとして完璧といっていいぐらい、観客をぐいぐい惹きつけるものがこの数分にあったように私は思います。

で、これは後からわかることなんですが、馬車を発見したのが主人公の少年であった、という事実そのものが痛烈な皮肉にもなっているという二重構造。

なんとも鮮やか、の一言。

ストーリーは、独裁政権に反発して政治活動に身を捧げる少年の父親が収監されてしまうくだり、なんとか恩赦を乞おうとする家族の奔走を軸に、少しづつ事件の真相がその輪郭を帯びてくる恰好なんですが、これがまた一辺倒なサスペンスに染まらぬ重厚さ、メッセージ性、ドラマがあって、おそろしく見応えあり。

全編に渡って強い筆致で描かれているのは子供が子供のままで居られなくなる醜い大人達の現実。

少年にとって尊敬すべき存在であった父親はどのように彼の中で形を変えていったのか、それが事件の謎を暴くプロセスと重なり合って衝撃の着地点へと物語を導きます。

もうね、はっきり言って救いがない。

ずーん、と最後には落ち込んでしまうこと間違いなし。

しかしこれがおもしろくなかった、というとそれは嘘になる。

サブキャラの立て方がやたらうまかった、という点にも着目すべきでしょうね。

特に片手のない少女、ヌリアの存在は出色。

少年の周りにいるのは誰も彼もが俗物で、唯一彼に安らぎを与えてくれるのは結核を患い余命いくばくもないラザロだけ、という対比も巧妙だったと思う。

細部まで気配りの行き届いた作話の聡明さがあるんですよね。

唯一、難点をあげるとしたらすべてが明らかになったあとの後日談みたいなのを最後に付け加えたことでしょうか。

まあ、これはみんな知りたいだろうし、作り手としても補足したかったのかもしれませんが、私には幾分蛇足に感じられた。

ここはやはり潔く、謎解きをもってしてエンドロールとするべきだったように思います。

そうすると本当に絶望的なエンディングになっちゃうかとは思うんですが、後日談のせいでちょっとブレてしまった印象はどうしても残りましたね。

あとは個人的な好みの問題で、もう少し煙に巻くような演出があってもよかったかも、と思ったり。

若干イデオロギーが先行してしまったような感触はありますが、ゴヤ賞9部門を受賞したことだけはある1作だと思います。

少年は一連の経験を経て、何を失い、何を学んだのか、つい考え込んでしまう力強い大作でしたね。





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