アメリカ 2010
監督 コーエン兄弟
原作 チャールズ・ポーティス



コーエン兄弟、初の西部劇。

勇気ある追跡(1969)のタイトルで原作は一度映画化されてますが、そのリメイク、というわけではなく、単純に原作を元として再映画化を試みた作品のよう。

監督は「勇気ある追跡」を記憶してない、と発言してます。

私も未見。

物語は、14歳の少女が殺された父親の復讐を誓い、協力者を雇ってたった二人で犯人追跡に乗り出す、という内容なんですが、もう、オープニングの段階から、あ、これは傑作、との予感がひしひし。

うまく説明できないんですけどね、小雪が舞い散る中、路上で息絶える父親に少しづつカメラが寄っていく場面から始まって、少女が単独でともに犯人を追跡してくれる男を探そうと街を右往左往するまでの一連のシークエンス、これがもう全く無駄なく完璧、というか。

さすがはコーエン兄弟、他とは違う、と私は舌を巻きましたね。

なにがどう違うのか、もっと具体的に説明できればいいんですけど、それができないのが私の限界だ、すまん。

でも見る人が見れば私の言いたいことはきっとわかってくれるはず。

原作が優秀、というのももちろんあります。

14歳なのにもかかわらず、タフなネゴシエイターで、強い意志を秘めた勇気ある少女という主人公のキャラ設定に惹かれるのは言わずもがな、その少女と同行するのが、すぐ拳銃をぶっ放してやたら犯罪者を血祭りにあげることで有名ではあるが、実態は初老のだらしない酔いどれ保安官、というのがなんとも危なかっしくて実にいい。

だってろくに拳銃を撃ったこともない少女と、どこまで本気なのかよくわからないじいさんのコンビですよ?

どう考えても返り討ちにあう可能性のほうが高い。

そんな二人が荒野を縦断し、野宿を繰り返し、数カ月に渡って犯人の痕跡を追い続けるんです。

これがおもしろくない訳がない。

描かれているのは少女の強気な性格だけでは如何ともしがたい現実の厳しさと、老いたりといえどすべてを知り尽くした保安官の老獪さであり、頑迷であるがゆえのゆるがなさ。

全く接点のない2人がお互いに触発されていく物語でもあるんですね。

またそれを監督はベタベタと感動路線よろしく、過剰に演出しない。

常に一定の距離感があるというか。

そこが物足りない、と言う人もきっと居るんでしょうけど、私はそれこそが先読みを許さぬ緊張感を産んでいた、と解釈。

少なくとも見知らぬ者同士が道行きをともにする上での、誇張の過ぎるやりとりは皆無だったように思います。

それがあったからこそクライマックスのシーンで、保安官がとった行動に深く心を揺さぶられるわけで。

あんたそういうことするキャラじゃないだろう、と認識してただけにね、こみ上げるものがありましたね。

派手な色使いを排した映像もすばらしい。

構図と陰影だけですべて表現しきった、とでもいいますか。

西部劇の乾いた質感や荒れ野の茫漠さがなんかやたらと美しいんですよね。

格別美人だとも思えないヘイリー・スタインフェルドを少女役に抜擢したのも慧眼だった、と思いますし、ジェフ・ブリッジズ、マット・デイモンの演技も文句なしにいい。

さて、トゥルー・グリット(真なる勇者)とはどういう男のことであったのか。

ラストシーンが言外につづるマティの心象こそがこの映画のすべてでしょう。

こりゃ名作だと思います。

優れた監督と素晴らしい役者陣、見事な映像の三拍子が溶け合ってますね。





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