1952年初出 手塚治虫
講談社漫画全集 全18巻



言わずと知れた漫画文化黎明期における歴史的名作。

誤解を恐れずに言うなら、ことロボットSFと呼ばれるジャンルに関しては、何もかも全てアトムがこの時代にして全部やりきってます。

それこそ人あらざるものの自我についてや、人を超えてしまった存在(ロボット)と人類の共存についてまで、その可能性や行き着く果てを手塚先生は想像力を尽くして言及。

もちろん子供向け漫画ですからアシモフを読むように、ブレードランナーを鑑賞するように、ってなわけにはいきません。

アトムが凄かったのは、勧善懲悪な正義のロボットが活躍する、というわかりやすい図式の中に、ロボットがロボットとして人間社会で生きていくというのはどういうことなのか、その本質を並行して描ききってる点でしょうね。

読み込めば読み込むほど、ふとしたワンシーンや、何気ないセリフに、はっ、とさせられることしきり。

表層的なわかりやすさの裏側に潜む深遠なテーマ性がもう、子供漫画の枠組みにないというか。

それこそが半世紀を経て、いまだ支持者の絶えない理由なのではないか、と私は思います。

また、アトムの存在そのものをあくまで異物として配置した設定も、なんてシビアなんだ、と唸らされたりしますね。

人間を超えた能力と知能を持つというのに、愚直なまでに人のため、その身を呈そうとする少年ロボット。

たとえ機械仕掛けと差別されようが、ポンコツとののしられようが、彼は壊れるまで人間のために戦おうとする。

人間たちはいつも後からアトムの滅私な行いに感謝する。

けれどそれも喉元過ぎればなんとやらで。

少しでも人とは違うことを察知すれば再び人々はアトムを弾劾しだす。

これが、いまだ紛争と差別の耐えぬ人間社会への痛切なアイロニーでなくて一体なんなんだ、と私は思うんですね。

この奉仕しても奉仕しても報われぬ哀しみは一体何事なのかと。

残酷すぎやしませんか先生、と思ったりもする。

けれど、だからこそ伝わってくるものの大きさ、考えさせられるものの奥深さは傑出している、とも言えるわけで。

古さはあります。

さすがに昭和27年から連載が始まった漫画ですし。

絵柄も全盛期と比較するなら定まってません。

でも、この作品をスルーしてAIだのアンドロイドだの語れない、と私は思いますね。

やはりロボット漫画の原点であり、金字塔である、と力説したい次第。

名だたる漫画家がみんなマネして、ひととおり一周して、今また逆に先進的なような気さえしてきますね。



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