ドイツ/ルクセンブルグ/フランス 2015
監督 フロリアン・ガレンベルガー
脚本 フロリアン・ガレンベルガー、トルステン・ヴェンツェル



クーデターによる軍事政権下で囚われの身となった彼氏を救出するため、単身敵地に乗り込む女の話、と聞いてたんで、てっきりクーデター(2015)の男女逆転版かな、と思っていたら全然違った。

大枠であらすじに間違いはないんですが、主に描かれてるのは、閉鎖的で盲目的な宗教団体施設からどのようにして男と一緒に逃げ出すかを追った大脱出劇でございました。

で、なんで映画の内容がそのようなことになっちゃってるのか、というと、その宗教団体が軍事政権と結託して反政府派を監禁拷問する役割を秘密裏に担っていたから、なんですね。

女は彼氏がそこにいることを突き止めて、単身殉教者を装い潜入するんですが、もう、そもそもが無計画なまま飛び込んでなんとかなるようなところじゃなくて。

施設の周りは監視カメラ、電気柵で完全武装、一度入ると二度と出てこられないと噂される陸の孤島状態で、内部は元ナチスの党員であるオッサンが指導者として300人近くの信者を完全にコントロールする狂信的独裁社会。

はっきり言ってヒロイン、アホです。

愛とか信頼とか道義の通用するような場所じゃないんですね。

間違いなく、男のことなんて綺麗サッパリ忘れて地元で仕切り直しが100%の正解なんですが、行っちゃうわけだ、若いから。

マイ・ダーリンを見捨ることなんてできないっ!ってな感じで。

そこから始まる強制労働と独特な価値観による支配の日々の描写は、異様な圧迫感と狂気に彩られた緊張感あふるるものだった、と思います。

なんせ信者どもの行動規範となるものやそのルールが良くわからないものだから、なにげない仕草や他愛のないセリフが見てて怖くて仕方がない。

何も起こってないのに、場面が切り替わると女性信者が体罰を受けて半殺しになってたりするんですよ。

しかもそれが共同宿舎でヒロインの隣に寝てた奴、だったりするから、明日は我が身をそのまま体現してたりもするわけです。

先の展開の読めなさ、は出色だったように思いますね。

過剰に説明しないことが底知れない恐怖と不安を観客にも疑似体験させていた、とでもいいますか。

しかも監督はそれを「1日目」「24日目」みたいなテロップを淡々と挿入することで、シーンを積み重ねていく手法をとる。

もうね「130日目」のテロップが出た時に、私は音を上げそうになった。

いい加減許してあげて、みたいな。

ひょっとしてこのまま脱走できずに終わるんじゃなかろうな、みたいな。

さすがにそんなことはなかったわけですけど。

また、一旦、安心させておいて、実は最後の最後まで、それこそ、その地を完全に離れるまで安心できない、としたシナリオ作りも見事の一言。

エンドロールが流れ出すまでほっとできない映画なんて本当に久しぶりに見た気がします。

しかしこれが史実を元にした映画、というのがまたなんともいえない感じですね。

実際にチリでおきた軍事クーデターが題材となっているのはともかくとして、宗教団体の閉鎖的コロニーまで実在してた、ってのはシャレにならん恐ろしさだと思います。

見終わった後、日本に生まれたことをつくづく感謝したくもなりましたね。

ただ、唯一難点があるとしたら、主演であるエマ・ワトソンの演技でしょうか。

ハリーポッターのときはかわいらしいお嬢さんだな、ぐらいの印象しかなかったんですが、改めて彼女に注目してみたら、主役を張るには思ってた以上にダイコンで辟易させられました。

ヒロインは安直な自分の行動を後悔しつつも、なんとか事態を打開しようとする強い女を表現しなけりゃいけなかった、と思うんです。

そこには恐怖と自分に対する鼓舞が同時に内在してなきゃおかしい。

でもエマ、ただ単にずっと仏頂面。

どう見てもふてくされてるだけ。

お前はエリカ様(古い)か!と私は思わずつっこみたくなった。

彼女の猿芝居のせいでカットされたシーンとか実はあったんじゃ、と勘ぐりたくなってくるほど。

エマのせいでせっかくの名作が強烈に足を引っ張られてるのは間違いないですね。

ああ、もったいない。

ともあれ、肌が粟立つようなスリルと一寸先の読めないおぞましさはそこいらのホラー以上だと思うので、エマのことは差し置いてでも見て損はなし。

上質なサスペンスであり、歴史の暗部をじっくりと描いた秀逸なスリラーだと思います。





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