アメリカ 2010
監督 ミゲル・サポチニク
原作 エリック・ガルシア



完全なる人工臓器が完成した近未来。

人工臓器のお陰で人々は長寿を手に入れるが、実は臓器そのものの値段はべらぼうに高額。

臓器を開発したユニオン社は、長期ローンを低所得者に進めることで、その金利を利潤とする商売を考え出す。

爆発的に広まる人工臓器。

けれど当然のことながら、貧困ビジネスゆえ、ローンが支払えなく連中が次から次へと現れてくる。

そんな滞納者達から人工臓器を回収するユニオン社直属の取り立て人たちがレポゼッションマン。

もちろん臓器を回収された人たちはその場でお陀仏。

さしずめレポゼッションマン、取り立て人の名を冠した殺し屋も同然。

しかしそれがなんら法に触れることなく合法である、というのが物語の大前提。



もうね、臓器回収人を主役とした近未来SF、という設定だけで私は軽く唸りましたね。

よくまあこんなネタ考えついたものだな、と。

プロットに独創性があることは、SF好きじゃない人でも認めるところじゃないでしょうか。

そりゃね、重箱の隅をつつくなら、法的に滞納者から商品を回収することの正当性におかしな点はまったくないとはいえ、こんなこと実際に起こり得るはずがないよ!と指摘する人もきっと居ることだろうとは思います。

尊厳死の問題ですら遅々として議論が進まないのに、回収→死に直結する行為を政府が野放しにしておくはずがないでしょうし。

人権団体やら野党やらが黙ってるはずがない。

そこはマンガっぽい、と揶揄されても反論できない部分かもしれない。

でも、低所得者を対象とした悪質なビジネスモデル、というところにのみ着目するなら、まさにこれってサブプライムローンの問題で揺れたアメリカ社会の当時の世相を見事皮肉ってる、と言えるように思うんですね。

SFが現実の合わせ鏡であるとするなら、それを忠実に遵守してることは間違いない。

なので私の場合は、多少の荒唐無稽さは丸ごと許せましたね。

また、なんとも筋運びが巧みなんですよ、この作品。

主人公であるレポゼッションマン自身が不慮の事故から人工臓器を埋め込まれてローンに追われる羽目となり、それが遠因でこれまでの回収業務ができなくなってしまう、というストーリーの推移がね、ああ、ほんと良く出来てるなあ、と思いました。

まあ、よくあるパターンといえばそうなんですけどね、我が身に降りかかってきたことで、初めて回収される側も「人」であることを知ってしまった主人公の苦悩に焦点を絞ってくる、ってのが私はどストライクでしたね。

さらにそこへ主人公の相棒の複雑な心情もミステリアスに絡めてくるんです、脚本を担当したエリック・ガルシアは。

うまいとしか言いようがない。

原作のエリック・ガルシア、企画段階からこの作品に関わってたらしいんですが、その熱意が十分伝わってくる精緻なシナリオだったと思います。

どう映像化したいのか、ちゃんと監督と連携が取れているように感じられるというか。

一方的じゃないし、無駄なことも一切やってないんです。

すごく贅肉を削ぎ落としてきてる。

それでいてアクションSF的な要素さえふんだんに盛り込まれてる。

これが面白くないはずがなくて。

白眉だったのはクライマックスのシーン。

詳しくは書けないんですが、お互いに傷つけ合い、血を流しながらも、笑みを浮かべ主人公の頭を掻き抱くヒロイン、ベスの描写には鳥肌が立ちましたね。

愛の交接を絵にするとしたら、これこそが最も本質に近い姿なのではないか、とすら私は思った。

もうこのまま終わってくれて充分だったんです、心情的には。

なんか凄いものを見た、って気分でしたし。

ところがだ。

屈指の名場面を見せつけておきながら、最後の最後で監督は物語を全部ひっくり返してくるんです。

唖然。

もう、小さく声すら漏れた。

襲い来る、凄まじい虚無感とやるせなさ。

よくぞこのエンディングをユニバーサルなんて大手で通すことができたな、と心底思う。

なんかもうね、今、俺、ちょっと泣いてないか?と鏡見に行きそうになりましたね。

ただ、この映画が上述したようにアメリカ社会の歪みを意匠を変えて映し出したものなのだとしたら、そのテーマ性はブレることなく完遂された、といえるでしょう。

ネタバレになってしまうかもしれませんが、この作品、21世紀の「未来世紀ブラジル」です。

傑作。

あえて言おう必見、と。

ジュード・ロウとフォレスト・ウィテカーの迫真の演技に酔ってください。

個人的には2010年、ベストの一作。

打ちのめされました。





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