オーストラリア/フランス/ドイツ 2009
監督、脚本 ジェシカ・ハウスナー



カトリック教会の巡礼地であるフランスのルルドの泉で、一人の全身麻痺の女に起こった奇跡を描いた作品。

さて、知らない人のために書いておくと、ルルドの泉というのは14歳の少女が聖母マリアのお告げに従って洞窟を掘ったら湧き出てきたとされる泉のことで、泉の水に病いを癒す力がある、と言われてるんですね。

現在まで68件に及ぶ病いからの奇跡的回復が確認されている、とか。

医療局がルルドにはあって、逐一奇跡認定を行ってるらしいので、これ、結構ガチな数字みたいです。

奇跡認定に漏れた不可解な回復だけでも2500件あると言われてるので、なにかしらある場所なのかもしれない、というのが衆目の一致するところ。

水に豊富な活性水素が含まれていることが科学的分析の結果、わかってるんですが、まあたかが水素水で難病がなおるわきゃないですよね。

プラシーボ効果みたいなのもあるのかもしれない。

けれどそれにしちゃあ回復した人の数が多すぎる。

全ては謎。

ただ、誰しもが必ず泉の水の恩恵を受けられる、とは限らない。

熱心なカトリック信者でも一向に効果が見られないケースが多々あるんですね。

そこに「なんであの人は回復して、私はダメなんだ」という猜疑や嫉妬が生まれてくるわけです。

主人公の女は熱心な信者、というわけじゃない。

でも昨日まで全く動かなかった四肢が突然力を取り戻し、歩けるようにまでなってしまった。

ここまでが物語の大前提。

で、ですね、実は私、この作品サスペンスだ、と思って見てたんですよね。

だから女が突然歩けるようになっても、なんか裏があるに違いないと勘ぐった。

実は難病のふりをしていた、とか、治るように仕向けた黒幕がいるとか。

でも違った。

1時間30分が経過しても一向にミステリな展開になる気配すらなかったので、さすがにこりゃ違うだろう、とようやく認識を改めた次第で。

なぜサスペンスだと思いこんでいたのかさっぱりわからないんですが、いらぬ期待をしたせいでどこか腰砕けな状態になってしまった、と言うのはあるんですよ。

なのであまり正しい評価が出来ないかもしれない。

そこを納得の上で続きを読んでいただくとして。

じゃあ、この物語って一体何だったのか、という話なんですが、これがまた実に説明しにくい内容でして。

ある種の心理劇と言ってもいいのかもしれない。

とりあえずエンディングのワンシーン、異様に怖いです。

え?なんなの、何が起こってるの?って感じ。

しかも監督はそれをはっきりと明かさない。

詳しくは書けないんですが、セリフじゃなくてね、絵ヅラだけですべてを読み取らせようとするんです。

キーとなるとはなにくれとなく彼女の世話を焼き、介護人を押しのけてまで主人公の女の車椅子を押そうとした婆さん。

ちょっと深読みのしすぎなのかもしれませんけどね、婆さんの存在が何かの象徴のように思えて仕方がなかった、私は。

それこそルルドの泉、という不可解な存在の根源に迫る勢いで。

ただ、そこにあえて着目しないなら、叶わぬ夢を見せて平気でそれをなかったことにする残酷さや、奇跡という不誠実で不明瞭な現象に振り回される人々に焦点を当てた人間ドラマ、ということになる。

どう解釈すべきなのか、ちょっと判断がつかないですね。

ちょっと難ありかも、と思ったのはカメラワークの単調さ。

同じ構図で特に動きのないままやたら長回しするんですよね、この監督。

それが妙な不穏さを煽ってたりはするんですけど。

どこかで見た手口だな、とあれこれ記憶をまさぐってたら、思い当たったのがミヒャエル・ハネケ。

んで、調べてみたらこのジェシカ・ハウスナーって監督、ハネケに師事してたらしい。

なるほど納得。

でもねえ、どうなんでしょうね、やはりこれを単調だと感じる人は私を含めて一定数居るんじゃないか、と思うんですね。

手法が観客を選ぶ結果になってやしないかと。

平気な人は平気なんでしょうけど、私はじれったい、と少なからず思いましたね。

結局のところ、ラストシーンをどう解釈するかで感想は違ってくるような気がします。

私は別の指向性を示唆するものであったように感じたんで、ひどく動揺しましたが、いや、そりゃ違うだろ、と言う人にとっては映画通が喜びそうな一作、で終わるかもしれません。

難病の女と奇跡という難しい題材を宗教的なファンタジーでくるんでしまおうとしなかった監督の手腕は評価されてもいいのでは、と思いますが。





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