韓国 2010
監督、脚本 ナ・ホンジン



延辺朝鮮族自治州に暮らすタクシー運転手の借金苦による転落を描いたクライム・サスペンス。

ほんとに物を知らなくて恥ずかしいんですが、韓国のすぐ側に少数民族である朝鮮族が治める自治州がある、というのが私の場合初耳で。

今調べてみたら56の少数民族が中国で暮らしているのだとか。

そんなのに居るのか!って感じですが、新疆ウイグル自治区の問題を取り上げるまでもなく、どこの部族も猛烈な勢いで成長を遂げた、漢族の支配する中国経済の恩恵にはあずかれていないみたいで。

延辺朝鮮族自治州も教育レベルが高い、といわれながらも貧困が蔓延してるみたいなんですね。

まとまった収入を得ようと思ったら韓国に出稼ぎに行くしかない。

けれど出稼ぎに行くためには就労ビザが必要となる。

ところが就労ビザ、これがまた高額で多くの朝鮮族はそのために借金をする。

韓国で働いて後から返す、って形なんですね。

主人公の妻もご多分にもれず、出稼ぎに行ってて。

それがある日、突然連絡が取れなくなった。

消息を追うために、怪しげな男から違法な仕事を請け負い、韓国に密入国をはかる主人公。

ところがその仕事には実は裏があって・・・というのが序盤のあらすじ。

もう、どう考えてもろくでもないことになりそうな予感全開です。

案の定、主人公は予想外のアクシデントに遭遇して、警察や事件の関係者から追われる羽目になる。

描かれているのは韓国人から侮蔑の対象とされ、いいように利用されてるクズ扱いの男が、異国の地で頼るものもなく、たった一人でいかに窮鼠猫を噛むか、その一点。

虫にだって矜持もあれば、魂もある、とした監督の熱い筆致は否応なく心を揺さぶります。

絶対ハッピーエンドは待ち受けてないな、これは、と想像つくんですが、それでもなけなしの期待でもってストーリーを追うのをやめられない。

チェイサーでもそうでしたけどね、熱量が半端じゃないんですよね、ナ・ホンジン。

たかがタクシー運転手がここまでやれるわけがない、と思う自分もいるんですが、ちょっとした追走劇ですら全力で演出する監督の熱心さに、気がついたら右へ左へと引きずり回されてる自分がいる。

どうにも目をそらすことができない。

あっという間の140分。

ただ、物語そのものを完全に解析しようとするなら、複雑な事実関係、人間関係を整理して類推する利発さが必要になってくるでしょうね。

私は途中で完全にわけがわからなくなった。

とにかく登場人物が多すぎるし、どう利害が絡んで、誰の思惑でこんなことになってるのか、高度なミステリ並の複雑さをストーリーが有してる事は確か。

何度か繰り返してみないと全容はつかめないでしょう。

でもね、すべてがわからなくても作品の抱えるテーマ性がまるで翳りを帯びてないように私は感じたんですね。

エンディング、打ちのめされます。

また肝心の妻の行方をラストシーンで拍子抜けとばかり暴いてみせる手腕も心憎い。

作り込みが過ぎる、という批判もあるかもしれませんが、私にとってはナ・ホンジンにハズレ無しを確信した一作でした。

ひどく熱くて哀しい優れた韓国産ノワールだと思います。

余談ですがミョンを演じたキム・ユンソクの不死身ぶりがマサ斎藤似の風貌と相まって最高に楽しいです。

あたしゃ、おまえはジェイソンか!と思った。





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