韓国 2016
監督 ヨン・サンホ
脚本 パク・ジュスク



韓国発のゾンビ映画。

えー正直申しまして、前評判の高さを知りながらも実はなめきっておりました。

もうね、ゾンビものでなにか新しいことができるとは到底思えなくて。

嚆矢たるナイト・オブ・ザ・リビングデッド(1968)から早や50年、近年のブームもさることながら、テレビドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」の終わらぬ汲み上げ作業が完全に井戸を干上がらせてしまった、というのが私の実感としてあって。

ジャンル映画として好事家が楽しむ以上のものを期待しちゃいけないんだろうなあ、と。

それは見始めて数十分が経過しても変わらなくて。

ああ、科学工場からなんか漏れてみんなゾンビ化したのね、はいはい。

んで、それが高速鉄道KTXの乗客にも感染するわけだ、へえ。

どうせ主要な登場人物がバタバタ死んでいくんでしょ?わかってんだから。

ほーら、やっぱり。

・・・・けど、これ・・・あれ?・・・ちょっと面白いかも。

あれ?

中盤ぐらいまで私が見進めて、侮れないかもしれない、と思ったのは主人公である父親と幼い娘のぎくしゃくとした関係性を、扉1枚隔てた感染への恐怖と隣合わせに描こうとしていた点。

仕事人間で利己的な父親は自分と娘さえ良ければ他人はどうなったっていい、という行動倫理で危地をくぐり抜けようとする。

だが幼い娘はそれに反して、足腰の弱った老人に救いの手を差し伸べようとしたりする。

大人と子供の立場が逆転しているようにも見えるこの構図が、結果的に彼ら2人に何をもたらすのか、というのが作品の主題としてあって。

それが周囲の人間をも巻き込み「窮地における人間性」への問いかけとして、ドラマに異様な深みをもたらしてるんですよね。

逃げ場のない高速鉄道の車内における攻防劇、という閉鎖性もたくみな舞台設定だったと思います。

鉄道は唯一の安全地帯と思われる釜山にむかってるんで、降りるに降りられない、逃げようにも逃げられない。

ゾンビぎっしりの満員列車、って絵面だけで手のひらには汗びっしょりなのに、それをやり過ごさなければならない、という生き延びるためのミッションがなんともスリル満点。

また、サブキャラの作り込みにもやたら長けていて。

妊婦のダンナを筆頭に、捨てゴマなしの鉄壁な布陣。

どの登場人物も物語を彩る上で欠かせぬ働きを見せているのに舌を巻く。

乗客がゾンビ化する過程を若干の早回しで編集してるのにも感心。

これ、単純なアイディアだと思うんですけどね、単純であるが故か、やたら気味が悪い。

まだこんなやり方が残っていたか、と膝を打つ。

気がついたらもう、画面に前のめりです。

見る前の冷めた態度はどこへやら、トイレ行ってる余裕もない集中ぶり。

で、迎えたクライマックス。

これがもう予想できうる展開にも関わらず痛切で。

うわーここでつき落とすのかよ~!と思いつつも、数分後には怒涛の涙腺決壊。

これは泣く。

間違いなくみんな泣いてると思う。

今思い出しても瞳がうるうるしてくるほど。

エンディングにおける布石の回収、その締めくくり方も見事。

あたしゃもう、軽く憤慨しましたね。

大のおとなを何度泣かせりゃ気が済むんだ、と。

はっきりいって、なにも新しいことはやってないし、むしろ本道を行く内容かとは思うんですが、作劇の素晴らしさ、演出の丁寧さにしてやられた気分ですね。

なんだか80年代に初めてゾンビ映画をみて大興奮した時の感覚が蘇ってくるかのようでした。

21世紀に立つゾンビ映画として、頭一つ抜けた傑作じゃないでしょうか。

百花繚乱、立ち腐れ気味なこの手のジャンルにおいて、ストレート直球がまだまだ通用する、と知らしめた瞠目の一品だと思います。

必見でしょう。





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