1994年初出 小川幸辰
講談社アフタヌーンKC 全3巻



隠れたバイオロジカルホラーの傑作と呼ばれ、後にエンターブレインから新装版も出た一作。

ぶっちゃけ絵はあんまりうまくないです。

正直言うと、あんまり好きになれない絵柄。

ただ、それをも差し置いて、物語の切り口、筋立て、着地点に独特なものがあったことは認めざるを得ないでしょうね。

とりあえず、昆虫に焦点を当てて、生物学的な見地から進化を検証していくやり口は、非常に興味深かったですね。

ロジックを積み重ねていくサイエンティフイカルな手法がどこか70年代の活字SFっぽい、とでもいいますか。

最終的に、人類と他種との共存を問うところにまで作品のテーマを押し上げた力量は評価していいように思うんです。

荒唐無稽なファンタジーに堕することなく、理を説いて現実から逸脱していく物語構成に変な力みがないし、最後まで一切ブレることなく着地点を迎えてますしね。

久しぶりにじっくり読み込んだことは確か。

しかしながら、だ。

ひっかかるのはヒロインである衿子の存在でして。

いったい衿子を通して作者は何が描きたかったのか?と言う点がいまひとつ汲みとれなかったりするんです。

昆虫にすら無限の慈愛を注ぐ衿子の人物像が人類というエゴイズムに満ちた存在のアンチテーゼになっていることは間違いないと思うんですが、だからといって昆虫の胚を自らの体内に宿すことすらいとわない、とまでになるとこりゃもう変人レベルであって。

自己保存の本能に欠けた病んだオタとか言いようがない。

とてもじゃないですがそこから深い母性とか、世界に対する愛情みたいなものは透けて見えないですよね。

むしろグロテスクなエロティシズムみたいなものの方が、この描き方だと先行する印象。

アニミズム的なものが根幹にあるのかも知れませんが、自己犠牲が演出するあまりに正論な自然崇拝って、かえっていかがわしく映るようにも思うんですよ。

結局、衿子をナウシカのように描けなかったことがこの作品をマイナーなままカルトに埋もれさせてしまった原因かと思ったりもしましたね。

美醜の対比を鮮烈に描きたかったのかも知れませんが、日野日出志的なグロテスクさの方がどこか後を引くんですよね。

生理的に気持ち悪いものを呵責なく描ききることが、作品の完成度とは別ベクトルで一人歩きしてしまったように感じられること、それがこの作品のネックかもしれません。

面白かったんですけどね、手放しで大好きだ!とは言えない一作ですね。

惜しい、の一言。

もう少しうまくやれば漫画史に名を残す一作になれたかもしれないのになあ、ってところでしょうか。



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