スペイン 2017
監督、脚本 サドラック・ゴンサレス=ペレヨン



この映画あらすじをなんと説明すればいいのか、非常に悩む自分が居たりするんですが、断言しましょう、この作品はキテます。

なんだかもう、不条理ホラーの佇まいさえあったりするんですが、実はホラーでもなんでもない、というのが本作の最大のミソ。

オープニング、左腕のない少女が義手を初めて試すシーンから物語は幕を開けます。

どうやら少女は人里離れた山中に、父親と二人暮らしのよう。

少女は何故か父親を憎んでいる様子。

仰天なのは、少女が母親だと呼ぶのが「犬」なこと。

で、犬は首元から下げたスピーカーから人語を話すんですね。

父親はあれはお母さんなんかじゃない、と強弁するんですが、少女は認めない。

そんなある日、少女は母親と散歩中に巨大で真っ黒な立方体を山野に発見する。

少女が触れると反応する立方体。

間を置かずして、少女たちの家に迷い込んでくる見知らぬ傷ついた姉弟。

なんだか訳あり臭が満開な二人。

少女の家庭環境は一体どうなってるのか、黒い立方体はいったいなんなのか、姉弟はいったい何者なのか、視聴1時間を経過しても全くわかりません。

というか、次から次へと謎めいた出来事ばかりが起こって、1ミリたりとも予測がつかない、と言ったほうが正しい。

一切の説明はありません。

ただただ不穏さが層をなして塗り重なっていく。

おそらく、前後関係を整理して丁寧に組み立てていけば全部伝わるん事なんでしょうけどね、どうも監督はあえてすっ飛ばしてる節があるんですよね。

必要最低限しか見せない、というか。

それでいて、深い闇の中に間接照明だけで輪郭をとらえたリビングのロングショットに、やたら尺を割いたりする。

普段の私なら「ああ、まどろっこしい、それより謎解きを」と思うところなんでしょうが、これがね、恐ろしく雰囲気があって、なんだか飲まれてしまいそうな怖さがあり、つい見いってしまうんだから本当にたいしたもの。

理解の及ばなさと絵ヅラの昏く蠱惑的な美しさの相乗効果に心を囚われちゃうんですよね。

いや、滅多にないです、私の場合、こんなこと。

ただね、なんだこれ、わけがわからん!?と、途中で投げ出してしまう人もひょっとしたらいるかもなあ、と思ったりはするんです。

あまりにストーリーテリングがぶっ飛んでますし、不親切ですしね。

でも、ちょっと待ってくれ、と。

最後までなんとか辛抱してくれ、と。

これがなんとあなた、ラスト数分で驚愕のオチを見せつけてくるんです。

終わってみれば、バカみたいにシンプルで決して特別とは言えないプロットであることに多くの人が気づくことでしょう。

どんなSFなんだよ!と私は思わずつっこんだりもした。

けどね、この作品がすごかったのは、普通に撮ってりゃあ間違いなく三文ドラマになったはずの空想奇譚を、最後の最後までそうとは気づかせずに、奇妙で薄ら寒いスリラーとして仕立て上げた点にあると私は思うんです。

凡百の職業監督にできる技じゃないことは間違いない。

演出、構成、シナリオ運び、映像センスともに尋常じゃないですね。

監督という立場が、原案を叩き台として、まだ見ぬ映像作品を紡ぎ出すことこそ仕事なのだとしたら、これほどのクラスのものって、そうそう他にはないように思います。

新時代の才能に触れた気がした一作でしたね。

いや、こりゃちょっと唸らされた、一見の価値あり、ですね。