1987年初出 手塚治虫



三作ある遺作の中のひとつ。
 
かの有名なベートーベンの生涯を描いた大作。
 
ベートーベンを憎悪するフランツというキャラが作中に登場し、史実とは異なる関係性の描写があるので、物語には手塚流の改変、演出があるんでしょうが、まずは60才近いマンガ家の描いた作品とは思えぬ瑞々しさと躍動感に驚かされます。
 
ちゃんと検証したわけではないんですが、先生は年をとればとるほど技巧に磨きがかかってきたような気すらしますね。

クラシックをあつかった過去の作品に「鉄の旋律」という中篇がありますが、あきらかにその時より何もかもが巧い。
 
特にベートーベンが自室でピアノを弾くシーン、多くの漫画家が音楽を絵で伝えようと悪戦苦闘してきた歴史の中でもこれは最高峰の表現のひとつではないか、と思います。

視覚が音を変換する。

こんなこと滅多にありません。

マンガの神様は最後まで神様のままであった事を示す力作。
 
未完が惜しまれますが、未完であっても伝わってくるものは驚くほど多いです。

先生にもっともっとたくさんの時間があれば、誰一人到達できない神がかり的な名作をかきあげたのでは、などと私は思ったりもしましたね。




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