1983年初出 松本零士
少年画報社ヒットコミックス 全4巻



999をもう一度、と言う編集部の意向が如実に伝わってくるタイトルですが、柳の下にやはり2匹のドジョウはいなかったことが証明されるに至ってしまった不運な一作。
 
当時、世間の評価は芳しいものではなかったんですが、なぜこれがダメなんだ、と実は私、1人憤っておりました。

いや、ほんと完成度高いんですよ、この作品。
 
少なくとも松本SFにありがちな矛盾や破綻、辻褄のあわなさや伏線の放置は本作では見受けられず。

ここ、凄い大事なのでは、と思うわけです、かつて幾度となく裏切られたファンとしては。
 
まあSFと言うよりは完全にファンタジーではあるんですが、過去作にはなかった新しい試みなども散見でき、思いのほか目新しい印象を受けることは確か。
 
まずですね、間違いなく平田先生みたいなキャラはこれまでの著者の作品には存在しなかった、と私は思うんです。
 
これはメーテルやジュンみたいな女性キャラしか描けなかった著者にとっては画期的な試みだった、といってもいいんではないでしょうか。
 
また、主人公が無力であることを認めたのも本作が初めてではないか、と思うんですね。
 
鉄郎でも物野始でも海野広でも何でも良いんですが、これまでの著者の長編SF作品の胴長短足の主人公達は無力で無芸でありながら、なぜか庇護の対象であり、意味なくその存在をもてはやされる傾向にありました。
 
しいて言うなら鋼鉄の意志、というはなはだ具体性に乏しい不確定な精神性を根拠にのみ、主人公として立脚していたわけです。
 
しかし本作では窮地に陥ってすら祈ることしかできない主人公の無力さを全肯定しており、またそれが唯一の武器である、と説く。
 
これは松本作品における主人公の変遷を語る上でちょっとした変革だと思います。
 
コンプレックスに打ちのめされた若かりし頃の怨念を照射するように頑固として鉄郎タイプの主人公しか描かなかった著者が、やっとその妄執から解き放たれた、とでもいいますか。
 
松本アニメブームも終息にむかいつつある中ひっそりと連載された本作ですが、狂乱の時代を過ぎて、その名残を惜しむようなタイトルとは裏腹に新たな手法を再構築するか、と予感させる一作であったように思います。
 
一読の価値あり。
 
個人的には1000年女王よりずっとおもしろいと思います。




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