1988年初出 山上龍彦
河出文庫



稀代のギャグ漫画家、山上たつひこの処女小説。

「ブロイラーは赤いほっぺ」を「鶏(とり)」に改題、ペンネームを「龍彦」に変えて文庫化。

まず私が唸らされたのは語彙の豊富さ。

本職の小説家であってすらこれだけ多彩な表現力を持つ人は少ないと思います。

変に力んだ感じがないのもいい。

下敷きになっているのはかつて少年チャンピオンに連載されていた「ええじゃない課」の1話らしいんですが、私が感心したのは漫画をそのまま文字としておこすのではなく、きちんと小説なりの様式であったり、作法にのっとって物語を成立させていることですかね。

とはいえけっして堅苦しくなってるわけじゃない。

地方の産業と人との関わりについて至極真面目に語ったかと思えば、巨大ブロイラーにふりまわされて右往左往する人たちのおかしさを落差たっぷりに描写してたりもして、磨かれた笑いのセンスは健在。

特にクライマックスなんて怪獣映画か、と言いたくなるような仰天の展開で、これは大きく予想を裏切ってくれましたね。

私は筒井康隆の「走る取的」を思い出したりなんかもしました。

作者が漫画で描ききれなかったことを補完しつつ、漫画におけるギャグのリズム、おかしさを小説に持ち込んだ意欲作だと思います。

小説家としての基礎体力は申し分ない、と思えることが何より驚きなオススメの1冊。



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