イラク/トルコ 2012
監督、脚本 バフマン・ゴバディ



無実の罪で30年にわたって投獄されたイランの詩人サヘルの、妻への愛情の行く末を描いた人間ドラマ。

噂にはきいてましたが映像センス、素晴らしいの一言です。

構図といい、光の加減といい、色調といい、ああ、これはもうアートだ、と素直にため息が出た。

一幅の絵画のようだ、と賞賛される映画が古今東西には数多く存在しますが、シーンが切り替わるたびにはっとさせられる作品なんてそうざらにあるもんじゃない。

その映像の説得力たるや、私がこれまで見たあまたの名作と肩を並べて比類なきレベルにある、と感じましたね。

視覚に飛び込んでくる切り取られた美の峻烈さときたらもう、それだけで思わず前のめりになってしまうほど。

眼福とはまさにこのこと。

あ、これ名作、と見始めて数十分で従順な飼い犬のように監督の足元にまとわりつき鼻を鳴らしだした私ですんでこれ以上書くこともなかったりするんですが、そこで話を終わらせちゃうのもどうかと思ったりもするんで、内容についても少し。

基本、ストーリーは単純なんですが、あえて時間軸を過去と現在に行き来する構成と、随所に挿入される幻視的なシーンが物語の連続性を断ち切っており、とっつきにくさ、は間違いなくあります。

さらにサヘルが書いた詩が朗読される形でセリフの間にまぎれこむものですから、混乱は必須。

余計な説明も一切ありません。

そういう意味では散文詩的、と言ってもいいかもしれない。

そこでつまづいてしまうと前衛、で終わってしまうかもしれません。

わかりやすく、親切な感動路線を求める人にとっては異端に写るかも。

ただ前述したように、私はとっつきにくさもややこしさもすべては映像が包括し、語らぬ求心力としてシナリオをリードしていたように思うんですね。

そこを受容できるかどうかが評価を分けるように思います。

描かれているのは悲劇の果て。

それを激情で叩きつけるのではなく、諦観にも似た心の機微で彩った才覚こそが実は最も凄いことなのかもしれません。

天才の一品だと思います。





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