2004年初版 五十嵐大介
小学館IKKIコミックス 全2巻



今のところ五十嵐大介の作品の中で個人的に一番唸らされたシリーズ。

ただ世間の論調とは違う部分で私は評価していたりします。
 
自然に対する敬愛と畏怖が作品の根底にはあり、その手の描写では右に出る者はなし・・・みたいな賞賛を当時はあちこちで見かけたものですが、この人が独特なのは、目線の高さが至極女性的であることだと私は思います。
 
単にナチュラル志向なだけなら、おそらくここまで惹きつけられるものはなかったように思うんですね。
 
いわゆる24年組と呼ばれる女流漫画家の作品をある程度読んだことがある人なら、その共通点に気づいてもらえるはず。
 
絵柄やプロットが似ている、と言うのではなく、その語り口やニュアンスが、明らかに影響下にあるように私には感じられるわけです。
 
手法が女流漫画家的であるのに、題材やストーリーが男性的だったのが、ここまで五十嵐の評価を高めた最大の理由ではなかろうか、と思ったりもします。

よく取りざたされている諸星大二郎の影響みたいなものは私の感覚では単に早とちり。

物語が帰結した結果、いくつかの共通項が見受けられる、程度のもの。
 
これまで女流漫画家が男性誌に活躍の場を移すパターンは多くあったと思うが、資質が女性的な男性作家が、男性誌で連載を重ねるケースはあまりなかったと思うんですね。

少女漫画を読み慣れていない人にとっては、その表現方法がなにやら妙に新鮮に映るんでしょうね。
 
作者の場合は、作品の題材がSF的で、自然回帰を促すかのようなテーマの作品が多かったことが、デリケートで女性的な作風に見事にマッチした、と言うことなんだと思います。

つまり、五十嵐大介という作家の特質は、性差を超えた創作表現にある、と私は考えます。
 
これをなんだかわかりにくい、とみるか、詩情あふれる創造性があるとみるかで大きくその印象は変わるでしょう。
 
それは山岸涼子や萩尾望都がどれだけ斬新で鮮烈なSFを発表してもなかなか男性読者に声高に支持されることがない事にどこか似ています。

漫画としての質は恐ろしく高い。

しかし、読者を選ぶことは確か。

商業主義的なわかりやすい漫画に慣れた読者の目にはこの作品の凄みは伝わりにくいかもしれません。

だが、おそらく五十嵐大介はここからさらに化ける。

この作品を否定するわけではないんですが、本当に評価が定まるのはまだ先のことなのでは、という予感がします。
 
その遍歴はまたおいおいこの場で語っていくことになるでしょう。

並みの漫画家でない事は間違いないでしょうね。



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