アメリカ 1987
監督 スタンリー・キューブリック
原作 グスタフ・ハスフォード



それほど戦争映画に詳しいわけじゃないのですが、これまでに見た同系統の作品の中で圧倒的に印象に残ってるのがこの一作。

さて私が戦争映画に求めるもの、って実は至極単純で「人情に訴えかけるような内容でないこと」「過剰なメッセージ性を含むものでないこと」の2点に実は尽きます。

何故そう思うか、というと、戦争と言う行為自体がそもそも情なんざ無視したところに成り立ってるものであり、そこを声高に主張したところで愚行の本質を暴くことにはならない、と思うのと、思想や哲学の入り込む余地がないのが戦争で、反戦の熱い叫びは同じように戦場に駆り出される人たち同士にしか届かない、と考えるからです。

そもそもなんでアメリカがこんなに戦争が好きなのか、というとそれが貧困層をお気楽に使ってできる経済行為であるから、に他ならないわけですよね。

一定の裕福な層が軍隊に入るか、というと間違っても入隊しないのであって。

食い詰めた連中相手に受け皿として軍隊を勧めるシステムがアメリカ社会の構造として存在してるのが最も薄ら寒く、問題視されるべき点で。

いまだ国民健康保険制度もままならない巨大な格差社会大国の歪みに着目しないと戦争の実態は見えてこない。

やれ悲惨だ、ヒューマニズムだ、と騒ぎ立てたところで戦争をもくろむ連中は痛くもかゆくもないわけです。

だって彼らにとってはそれが産業だから。

そういう意味でこの作品は、余計な感情に一切振り回されず、ただ淡々とその実状を描写した、と言う意味において実にクレバーだった、と思います。

もうどう見ても洗脳教育でしかない前半の展開は観客の感情移入を徹底的に排した上での記号的悪夢でしたし、後半の狙撃手を巡る顛末もその非効率性、リスクの底知れなさを訴えかける恐怖そのものだったように感じました。

ここまで時間とコストをかけて教育を施して、いざ戦場へと兵士を送り込んだところで、敵スナイパーはさらに戦術と予測の裏側をいく、と物語を落とす手腕には、なんてキューブリックの目線は冷静なんだろう、と本当に震え上がった。

残るのは徒労感、なんですよね。

こんなことまで起こってしまうんじゃあ、いくら人海戦術を駆使したところで到底勝てやしない、と脱力してしまうような虚無感。

戦争の本質に言及せず、戦争そのものを描くのだとしたら、これほどその無意味さ、国家的施策の愚昧さをずばり指摘した映画はなかったのではないか、と私は思います。

可哀想だとか、人命の尊さだとか、そんな一辺倒のお題目をすっとばして、その先に焦点を合わせた傑作だと確信する次第。

反戦と言うより、厭戦。

誰が見てもそれが伝わるのでは、と思えるところもまさに凄み。

名画に偽りなし。






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